第二巻 解説
佐藤忠男(映画評論家・日本映画学校校長)
 1930年代に子供だった日本の男性にとって最も有名な漫画は田河水泡の「のらくろ」である。1931年から1941年まで雑誌「少年倶楽部」に連載されていたもので、最初、孤児だった野良犬の黒というのが、猛犬連隊という犬の軍隊に入って二等兵になって、訓練に演習にヘマばかりやっては笑わせるという滑稽な内容であって「のらくろ二等兵」と題されていた。これが人気があって長期連載になり、一年に一階級づつ進級させていったら、九年目には大尉になってしまった。
 作者の田河水泡はもともとアナーキズム系の前衛美術家であり、この漫画は貧しい孤児の愉快な冒険物語のつもりで描きはじめたものであるが、ちょうどこの時期が日本の軍国主義化の時代だったために、子供たちの軍国熱に煽られて対立する山猿連隊との戦争ごっこもどきのエピソードなども盛り込まれたりした。だからこれは戦後には、子どもの軍国熱を煽った軍国主義煽動の漫画であったと見られたりもした。ただ作者のために少しばかり弁護すれば、この漫画では猛犬連隊のブル連隊長が敵の山猿連隊の戦術にひっかかって捕虜になり、勇敢な部下ののらくろに救出されたりもする。もし猛犬連隊が日本陸軍をモデルにしたものだとするとこれは不敵なアイデアである。日本帝国の本物の軍国主義者はそんなことは絶対に認めなかったはずだからである。私はむしろ、日本軍がせめて「のらくろ」の猛犬戦隊ぐらいまで人間味(?)のある組織だったら、あの戦争の無残さももう少しなんとかなったのではないかとさえ思うくらいである。
 とにかく「のらくろ」は当時圧倒的なまでに人気があったもので、アニメーションの作家たちがこれに注目しないわけはない。この「日本アニメクラシックコレクション」では第二巻の「のらくろ二等兵〜教練の巻・演習の巻〜」(1933年)と第三巻の「のらくろ伍長」(1934年)、そして第四巻の「のらくろ少尉〜日曜日の怪事件〜」である。軍国主義時代を代表する子ども漫画として知られるわりには、じつにのんびりとしたナンセンスな笑いをめざしたものであることが分かるだろう。
 「ダン吉島のオリムピック大会」(1932年)と第四巻の「冒険ダン吉〜漂流の巻〜」(年代不明)も「のらくろ」と並んで「少年倶楽部」で人気のあった島田啓三の連載漫画「冒険ダン吉」が原作であり、これも少年に南方進出熱を煽ったものだと戦後に批判されたが、単純に少年らしい冒険心に訴えたのんびりとした作品であった。